2022.12.27 Omiaiレポート

恋と歌謡~②人気曲の歌詞から見えてくるものとは?

全5回に渡ってお届けする「恋と歌謡」、第2回の今回は人気曲の歌詞からは何が見えてくるか、についてです。

人気の恋愛ソングをテキストマイニングしてみる

センチメンタルな歌詞に使われている言葉が大きく出現!

日本人がセンチメンタルな楽曲を好むのであれば、人気の恋愛ソングには感傷的な歌詞が使われているはずです。
そこで、まずは第1回の「日本人はセンチメンタル?」で紹介した「2022 年カラオケ年間ランキング TOP10」の1位~10位までの歌詞をテキストマイニング(出現回数の多い単語や歌詞の中で特徴的な単語のスコアが高くなり、大きく出現)してみました。
特に目立っている単語が「離す」。この「離す」は、歌詞上では「もう離れないで」や「離さない」、「離したくない」といった意味で出現しています。

例えば『マリーゴールド/あいみょん』では、<あの日の恋 「もう離れないで」 と 泣きそうな目で 見つめる君を>といった感傷的な歌詞の一節で使われています。
また、「見つめる」という単語も大きく出現していますが、前述の『マリーゴールド』の歌詞に見られるように、やはり感傷的な歌詞の一節で使われています。

他にも「抱きしめる」という言葉が大きく出現。この「抱きしめる」は、例えば『さよならエレジー/菅田将暉』の歌詞にも見られるように、別れた相手や片思いの相手に対して「抱きしめたい」「抱きしめて欲しい」と願う言葉の意味として出現しています。
このように人気の恋愛ソングの歌詞をテキストマイニングしてみると、センチメンタルな歌詞に使われている言葉が大きく出現することがわかりました。

次の項目では、10代~50代の年代別恋愛ソングランキングを見ていきながら、各世代 TOP20 の歌詞をテキストマイニング。多くの人が心を寄せて歌う曲には、世代間による傾向や恋愛観が見えてきました。

若者世代のエモーショナルで前向きな恋愛観

年代別ランキングからも浮き彫りに!

10~50 代が歌った恋愛ソングを年代ごとにランキングした結果、10~20 代の結果からもセンチメンタル系の多さが目立ちます。
しかし、10 代のランキングには「両思い」を歌った曲が 3 曲入るなど、若者世代の前向きな恋愛観が透けて見えます。そして 10~20 代の若者世代に強く刺さっている二組のバンドにも注目。

『シンデレラボーイ/Saucy Dog』、『なんでもないよ、/マカロニえんぴつ』は、両曲ともサビが徐々に盛りあがる感情を揺さぶる恋愛ソングで、若者世代のエモーショナルな恋愛観ともフィットしています。

歌詞のテキストマイニングを行うと、スコアの高い「離れ難い、抱きしめる、見つめる」などのポジティブワードが大きく出現。ネガティブワードは使用頻度が低く、「泣く、終わる」などは小さく出現しています。
この結果からも若者世代の前向きな恋愛観が読みとれます。ランキングはセンチメンタルな楽曲が中心ですが、実際は恋愛を楽しみ、または楽しい恋愛に期待と憧れを抱いている様子がうかがえます。

30代が世代間のボーダーラインに

恋愛を振り返る起点は40代

30代のランキングは、前後する世代との境界線といった印象。
例えば10~20 代で人気の『シンデレラボーイ/ Saucy Dog』『なんでもないよ、/マカロニえんぴつ』は 30 代からランキング圏外となり若者世代との境界線に。

逆に若者世代で人気の平成ロック『丸の内サディスティック/椎名林檎』は 30 代までがランキング圏内で、中高年世代との境界線になります。
これは 30 代の恋愛観、結婚観ともよく似ていて、Omiai Report 「恋愛トレンド 2022 ①恋愛にまつわる様々な価値観を徹底調査!」の調査では、結婚したい年齢の理想とリミットはともに「30歳」との回答がトップに。
恋愛の先にある結婚を具体的に考える 30代は過渡期ともいえ、それが自身の歌う恋愛ソングにも表れているようです。

40代は『I LOVE YOU /尾崎豊』『糸/中島みゆき』『粉雪/レミオロメン』『雪の華/中島美嘉』など、昭和後期から平成前期にヒットした恋愛ソングがランクイン。若者の時に聴いた恋愛ソングを懐かしむ傾向が顕著に表れました。

30 代と40 代のテキストマイニングでは、出現頻度の高い「君」を中心に、スコアの高い「見つめる、離す、僕ら、繋ぐ」のワードが周辺を囲みます。
例えば「君」+「見つめる」のワードは「マリーゴールド/あいみょん」の歌詞「見つめる君を」に登場するなど、恋愛中の心情を想起させる言葉が中心に並んでいます。

新旧の恋愛ソングが交差

経験豊富な 50 代らしいランキング

50代のランキングでは、現在人気の恋愛ソングと自身の青春時代にヒットした曲が混在する結果に。
旬の恋愛ソングを楽しみながら、自分たちの青春時代を懐かしむ様子がうかがえます。とくに1980年代前半~ 1990 年代前半のヒット曲『夢の途中/来生たかお』『I LOVE YOU /尾崎豊』『オリビアを聴きながら/杏里』『ワインレッドの心/安全地帯』が 50 代に人気。
センチメンタルな歌詞や曲調が多い中、みんなで合唱できるポジティブな曲『愛は勝つ/ KAN』もランクインしています。

歌詞のテキストマイニングでは「離れ難い」を中心に、『夢の途中/来生たかお』や『糸/中島みゆき』といった楽曲で顕著な、他の世代にはない「逢う」が大きく出現しています。
日常的に使う言葉「会う」は 2 人以上で集まる様々な場面で使いますが、「逢う」は親しい、好ましい人と 1 対 1で対面する場合に使います。ランキング上位『ドライフラワー/優里』や『夢の途中/来生たかお』、『オリビアを聴きながら/杏里』といった楽曲に代表されるように、出会い、別離を意識したセンチメンタルな曲が50 代には多いといえます。

人生経験が豊富な50 代は聴いてきた恋愛ソングも多く、自分の好みが明確になっているので、他の世代とは違う50 代ならではのランキング結果となりました。

歌謡曲と言えば この人! 恋愛ソングの傾向を解説
全世代でセンチメンタルな恋愛ソングが人気。
売れている曲のキーワードは「キュン」
日本の音楽シーンを昭和 40 年代から考察すると、恋愛について歌っている楽曲が多く、暗いものが多いことが分かります。
まず、大衆音楽をシンプルな構造で表すと、演歌を含む『昭和歌謡』→『J-POP(歌謡曲 + ニューミュージック)』の流れになります。
恋愛ソングは演歌のようなドロドロしたメランコリーなものから、J-POP の感傷的な “ センチメンタル ” なものに移行します。この両方に共通しているのは、ハッピーな歌ではなく、失恋、片思い、どこか切ないということ。全世代で“センチメンタル”な歌が人気なのは、このようなベースがあると考えられます。
そして今も昔もヒット曲には、どこか切ない=胸がキュンとするポイントが必ずあります。
曲でいうと、センチメンタルなもの悲しい響きがキュン度数を押し上げます。例えば 80 年代のヒット曲『リンダリンダ/ザ・ブルーハーツ』は、センチメンタルとかけ離れた元気なパンクロックですが、よく聴くと「もしも僕“が”いつか君と」の“が”のように、もの悲しい音を含んでいます。
キュンとくる歌詞の傾向でいうと「悲しい」「寂しい」という直接的な形容詞よりも、「離す」「離れ難い」などの持って回った表現を日本人は好むようです。これは日本語の言語的な特性もあると思いますが、聴き手が自由に歌詞を解釈できるので幅広い層の心に響きます。
このように恋愛ソングには必ずキュンとくる要素が含まれているので、自分が好きな恋愛ソングから探してみるのも面白いかもしれません。
音楽評論家
スージー鈴木さん

1966年大阪府生まれ。音楽評論家。
昭和歌謡から最新ヒット曲まで守備範囲は広く、国内だけでなく海外の音楽にも精通。
WEB 連載『東洋経済オンライン』『FRIDAY オンライン』などさまざまなメディアで執筆中。近著に『桑田佳祐論』(新潮社)。

▶前回:恋と歌謡~①日本人はセンチメンタル?

▶NEXT:恋と歌謡~③優里「ドライフラワー」は究極のキュン曲!?

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