2023.01.06 Omiaiレポート

「恋愛」と「心」と「気分」の曖昧な関係~②心と気分の整え方

全2回に渡ってお届けする「「恋愛」と「心」と「気分」の曖昧な関係」、第2回の今回は精神科医の星野概念先生にお話を伺っています。

恋愛は心が乱れるひとつのきっかけ

脳内報酬がパニックを引き起こす

恋愛は、心と心の距離がとても近い人間関係です。恋愛がうまくいっている時は、自分を肯定してもらっているような気持ちになるものです。
「好き」だとか「愛してる」みたいなことを言われるのって、強烈な喜びですよね。だからこそその反動も大きく、それがなくなったり、なくなりそうになると、不安になったり心が不安定になります。

例えば、恋人に LINEをしたら「好きだよ」という愛情溢れるメッセージが返ってきたとします。そうすると、その人に連絡することを思い描くだけで、愛情の溢れるメッセージが返ってくる結果を想像する、報酬を期待する脳の回路ができるんです。

だから急にそれがなくなると、パニックになる。脳の仕組みはすぐには切り替わらないので、辛い思いをします
でも、大抵は時間が解決していきます。報酬が得られなくなったら(連絡しても返って来ない)、その回路は段々と働かなくなるので、仕方ないと思える時が来る場合が多いです。

辛い思いをする前に

「自分の取扱説明書」を作っておきましょう

恋愛で辛い思いをして心が乱れた時は、自分の心や気分、考え方をコントロールすることが少し難しくなります。ポイントは「何をしたら、どういう考え方をしたら自分は楽になる人なんだろう」というのを知っておくこと。

だから、前もって自分の取扱説明書を作っておくことをおすすめします。
「自分はこういうことをすると気分が良くなる」ということをできるだけ細かくメモしておいて、自分の取説を作っておく。普段からそういうことをしておくと、いざ辛くなった時、自分の助けになってくれるはずです。

しかし、辛くならないとなかなかやらないので、言うは易し行うは難し…。自分の取説がなく辛くなってしまった場合は、ストレスコーピングで心を整えましょう。
しかし、なかなかひとりで行うのは難しい場合も多いので、悩みが長引くようなら専門家に相談することもひとつの選択肢として頭の中に入れておいてください。

精神科医
星野概念先生

精神科医として働くかたわら、執筆や音楽活動も行う。雑誌や Webでの連載のほか、寄稿も多数。
音楽活動はさまざま。著書に、いとうせいこう氏との共著 『ラブという薬』(2018)、『自由というサプリ』(2019)(ともにリトル・モア)、単著『ないようである、かもしれない~発酵ラブな精神科医の妄言』(2021)(ミシマ社)がある。

恋愛以外にも共通

3つのストレスコーピング(対処法)

ストレスコーピングとは、ストレスに対して主体的・意図的に対処する方法です。自分でコントロールするのが難しい「気分・感情」や「身体反応」以外の、「考え」と「行動」をコントロールする、というものです。

①「考え」に働きかけるコーピング

湧いてきた考えを再検討してみる。
例えば「自分なんていなくなってもいい」って思ったけど「それって本当にそうかな?」と、考えを調整してみる、再検討してみる、というのが「考え」に働きかけるコーピングです。

湧いてくる考えには、偏りがあるんです。特に辛い状況になると、その偏りは目立つようになります。行動よりもコントロールが難しく、ひとりでやるのはなかなか難しいかもしれません。

②ストレスの原因に直接働きかけるコーピング

ストレスになっている原因に直接働きかけて、その問題を変化させる。
例えば「職場での居辛さ」があったとしたら「人事に相談して部署異動をお願いしてみる」というのも問題焦点型のコーピングです。

しかし恋愛の場合、問題に直接働けることはなかなか難しい。ストレスの原因になっている相手を変化させるのは難しいので、例を挙げるなら「モラハラがあったら別れる」ということになります。

③ストレスの問題を直接解決できない時のコーピング

ストレスの問題を直接変化させられない場合は、例えば「1 人カラオケで思いきり歌う」というような行動でストレス発散をする、情動に焦点を当てて調整する方法があります。

コーピングは個人的なものなので、どんなに些細なことでも良いです。「お気に入りのあのお店に行って、あの銘柄のお酒を飲んで、あのメニューを食べる」というような、行動がより細かいほうが効果的です。

身体が凝ったら・・・

マッサージへ行くように、心のマッサージもしてあげましょう

日本では「話をしに行く」という習慣や発想が浸透していませんが、語る場はあったほうが良いと思います。身体が凝ったらマッサージへ行く人も多いですよね。心も同じで凝ります。

アメリカではカウンセリングが市民権を得ていると聞きますが、日本では心のマッサージ、心の凝りほぐしをする文化がない
だから失恋すると「凝りを通り越して急にぎっくり腰になったぞ」というような状態になるのではないでしょうか。マッサージへ行くと、なんか身体が軽くなるのと同じ。話をすることで、なんか心が軽くなる、それも大切なことです

頭の中がごちゃごちゃしている状態だと、行動に移すことはとても難しいと思います。だけど話をしてアウトプットすることで、ごちゃごちゃを整理できる。
相談の場では、アウトプットしたことをもとに、その人の悩みを一緒に眺めたり、どうしたらいいか頭を捻ったりできることが大事なんだと思います。

恋愛の場合、相手のことを知っている友達に話をするのも良いと思いますが、友達は話を聞くことでお金もらっているわけじゃない。だから当たり前ですけど、その友達の忙しさや機嫌によって、言うことが変わったり、キツいことを言われちゃったりする可能性もある。
その点、専門家のカウンセリングは安全と安心が保たれています

「自分の取説を作る」

ひとりで対処に困ったら「専門家を頼る」

仕事が原因で心が病んだら心配されるのに、恋愛が理由で心が病むと、心配よりも白い目のほうを多く感じるのはなぜ?
という思いでスタートした本企画。その答えは、星野先生が指摘した通り「他人に恋愛の悩みを話す文化がない」ことだと思います。
そしてもうひとつ、女性は恋愛の悩みを口に出すけど、男性は秘密裏にしているという男女差も、「メンヘラ」なんていう曖昧な日本語を流行らせている理由なのかもしれません。

海外ドラマを観ると、夫婦やカップルでセラピーを受けるシーンが当たり前に登場します。日本にも「心が疲れたり、気分の浮き沈みが治らない時は、心の凝りほぐし」をする文化が浸透してくれたらいいのにな、と願うばかりです。
そして、星野先生が教えてくれたストレスコーピングや自分の取説を持つという対応策が、少しでも恋愛で悩んでいる人のヒントになれば、と思います。

冒頭で述べた通り、恋愛の悩みに関する対処法は決して簡単に提案できるものではありません。とは言え、悩みを抱えている人に対して届けるべきことはまだまだあるはずです。ぜひメディアの皆様と共に考え続けていきたいと思っています。

調査期間:2022 年10月5日~ 2022 年10月6日
調査対象:都市部(東京、大阪、愛知、福岡)に居住する15~ 59 歳の男女
調査数 :1,000 名
調査方法:Webアンケート

▶第1回:「恋愛」と「心」と「気分」の曖昧な関係~①男女関わらずある恋愛の悩み

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